2026年9月19日、ザ・プリンス 京都宝ヶ池で開催された「明徳・岩倉北学区合同敬老会」において、岩倉北小学校の児童の皆さんによる「岩倉史謡」の踊りを拝見しました。ここに、上野み代子の息子・上野 修(株式会社フェアーウインドディレクター)が知る亡き母と岩倉史謡との関わりを回想として記したいと思います。
岩倉史謡への深い思い
上野み代子(1923~2026)は、生涯を通じて岩倉地域と深く関わってきました。そのため、岩倉史謡には特別な思いを寄せていたように思います。
母は会長を退任する93歳(2016年)まで50年以上にわたり、岩倉婦人会・女性会の会長を務めました。当時、岩倉史謡は区民運動会や石座神社のお祭りなどで披露され、地域の人々に親しまれていました。その歌詞は、岩倉具視公をはじめ、岩倉各地の歴史や特色を歌い伝える、地域色豊かなものです。やがて人口の増加に伴い、岩倉地域に二つの小学校が新たに開校し、地域が三つの学区に分かれました。それにより、地域の人々が一堂に集まり、岩倉史謡を踊る機会も次第に少なくなっていきました。
そのような状況の中で、母は、北白川のサワダ音楽院沢田和彦氏に岩倉史謡の録音を依頼し、
私費でカセットテープを制作し、地域の関係者に寄贈しました。

監修:沢田和彦 唄:下村典子 題字:城守茂右衛門 岩倉史謡・舞踊保存会
その後も女性会を中心とした地域の有志によって岩倉史謡の踊りが受け継がれていきました。
井上八千代氏によるご指導
2008年のある日、私が、仕事で京舞井上流五世家元 井上八千代氏を取材したことを母に伝えたところ、
母は、「電話番号を教えてほしい」と言い、
その場で井上八千代氏に電話をかけ、岩倉史謡の踊りを見ていただく約束を取り付けました。
約束の日まであまり時間がありませんでしたが、各地区の会員に連絡し、17人の踊り手を集めました。
この話を聞いた明徳小学校の先生方4人も同行されました。
一行は、新門前通にある井上流のお稽古場を訪ね、母は、岩倉史謡の由来と、振り付:井上八千代として書かれているにことついて説明しました。
その時、井上八千代氏は、次のような趣旨のお話をされました。
井上八千代が「岩倉史謡の振り付けをしたという話は聞いておりません。しかし、もし振り付けたのであれば、実際の踊りを拝見すれば、井上流とは異なる部分が分かるかもしれません。その部分を井上流の形に整えるということであれば、お手伝いできます。それでよろしいですか」
こうして、実際に踊りを見て、ご指導いただけることになりました。
持参したカセットテープから音楽を流し、17人が岩倉史謡を披露しました。ご指導くださったのは井上八千代氏で、井上安寿子氏にもご一緒いただきました。
お二人には、約束していた時間いっぱいまで、熱心にご指導いただきました。
指導を終えた後、全員で記念写真を撮影。直前に亡くなられた四世井上八千代氏のご遺影も一緒に収めさせていただきました。

【2008年11月26日お稽古場にて】 撮影:上野修
映像と音源の保存

【岩倉史謡オリジナルDVD】
この日の様子は、み代子の孫・上野恵美がビデオ撮影しました。
また、カセットテープに収録されていた岩倉史謡の音源は、
私の妻・圭子の実弟である堀尾哲二氏の録音スタジオで、
デジタル音源へ変換していただきました。
その後、母の依頼を受けた上野恵美が、デジタル化された音源と当日の映像を使って、オリジナルDVDに編集しました。
母は完成したDVDを、岩倉地域の三学区の関係者に寄贈しました。
岩倉史謡を後世に残したいという母の思いは、地域の方々だけでなく、家族の手によっても映像と音源に記録され、次の世代へと受け継がれることになりました。
2021年、再び井上八千代氏と

前列:井上八千代氏・上野み代子 後列:古瀬ゆかり左京区長・副区長
時が流れ、2021年12月19日、「『岩倉の文化』発信プロジェクト
――岩倉史謡・舞踊披露と井上八千代氏講演会」が明徳小学校で開催されました。
このとき、井上八千代氏のお取り計らいにより、母は特別にお目にかかる機会をいただき、
明徳小学校で記念写真を撮影していただきました。
2008年に岩倉史謡をご指導いただいて以来、折に触れご挨拶をさせていただいておりました。そうした長年のご縁もあってか、井上八千代氏は、母との個人的な記念撮影にも快く応じてくださいました。
また、実行委員会の全体写真の撮影では、車椅子に乗った母を最前列に座らせてくださるなど、関係者の皆さんから温かいご配慮をいただきました。
岩倉史謡に託した思い
母が亡くなった年2026年に、岩倉北小学校の児童の皆さんが岩倉史謡を披露する姿を拝見できたことに、深い感銘を覚えました。
地域の歴史や文化は、記録に残すだけでなく、実際に歌い、踊り、次の世代へ伝えていくことによって生き続けます。
岩倉史謡の踊りが、子どもたちへと受け継がれている様子を垣間見て、
母が大切にしてきた岩倉史謡が、これからも地域の皆様によって歌い継がれ、踊り継がれていくことを、心から願っています。
2026年9月
上野 修
(株式会社フェアーウインドディレクター上野聡司)




